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組み立て

ダイオード

 Theremaxでは次の3種類のダイオードが使われています。

 これらのダイオードは小さくて透明です、 ゲルマニウムダイオードは、他のダイオードに比べてひとまわり大きな形をしています。

 このキットでは、これらの部品はそれぞれ分けて梱包されています。 部品を取り付け始めるまで梱包を解いて部品をごちゃ混ぜにしないでください。 一度ごちゃ混ぜにしてしまうと、仕分け直すのは大変です。
ダイオードには極性があります。基板の印字の帯のある側と、部品の帯のある側を合わせて取り付けます。 ちょうど良い角度に部品のリードを曲げて、基板の穴に通してください。
ダイオードは比較的熱に弱いので、ハンダ付けは出来るだけ手早く行う必要があります。

IC

 ICは、静電気の放電により特に破壊されやすく、全ての部品の中で一番ダメージをうけやすい部品なので、比較的慎重に扱わなくてはなりません。 最近のICは、昔の物より壊れにくくなっていますが、ICを出来るだけ慎重に取り扱う癖をつけるのは良いことです。他にも、組み立て時に、ナイロンなど合成素材の服を着ない、 組み立てを行う前に、カーペットの上の物を動かさない(もし動かしてしまったら、金属製の電気スタンドなどの体の静電気を確実に放電できる物に触っておく)などの癖を付けておくと良いでしょう。
 怖がる必要はありません。ICがこのような原因で壊れてしまうことは稀です。

 ICには、1番ピンを示す丸印と、1番ピンのある側を示す半円形の欠けの2つの極性の目印があります。 これらの目印と、基板の印字と逆にならないように気をつけてとりつけて下さい。

 ICのピンは少し広がり気味なので、そのままでは基板の穴にピッタリとははまりません、ちょうど良い角度になる様に慎重に足を曲げて調整してください。
 ハンダ付けの際は、まず角のピンとその対角線上のピンの二つのピンから始めます。ICが基板に対して浮かない様にしっかり固定するため、最初に角のピンをハンダ付けしたら、再びそのハンダを溶かしながら部品を基板に押し付けて固定し直してください。最初の2つのピンがしっかりハンダ付け出来たら、残りのピンをハンダ付けしていきます。

最初のテスト

 配線の再確認が完了したら、スモークテスト(新製品に対して行われるテストの一つ)と呼ばれる非常に重要なテストを行います。何かトラブルが起こるのは、大抵この時です。

 ACアダプタをコンセントにさしこみ、パワースイッチを入れます、LEDが点灯するはずですが、もし点灯しない場合はすぐにコンセントを抜いて原因を調べなければなりません。

 ただ単に使用したコンセントに電気が来ていなかっただけかもしれませんし、部品が間違えて取り付けられているか、回路のどこかでハンダがブリッジしているのかもしれません。 極性のあるトランジスタ、ダイオード、IC、電解コンデンサの向きを確かめましょう。

 LEDが無事に点灯したら、数分間電源を入れっ放しにして、その間に部品が過熱したり、変な匂いや煙を上げていないか確認をしてください。

テストとチューニング

 最初のチューニングはちょっと変わっています。

 音程の発振器のペアと、音量の発振器のペアをそれぞれヌル(零位: 周波数が一致して音が出なくなる点)に近づけて、あらゆる音の変化を聞こえる状態にします。というのも、音程の発振器がヌルに近づいていても、音量の発振器が離れていると音量が出ないので何も聞こえませんし、逆に、音量の発振器がヌルに近づいていても、音程の発振器が近づいていなければ音の発振がないため何も聞こえてきません。いずれにせよ、調整は足がかりが無く困難なものになってしまいます。調整を簡単にするため、一時的に音量制御回路のヘテロダイン部(二つの発振器の信号からうねりを発生させる)を無効にして、 VCA(電圧制御増幅器)を強制的にオンにした上で、音程の発振器を調整します。

 付属の鰐口クリップのリード線を用いて、V+ ( ツェナーダイオードD1の帯のある方の端子)と音量調整の可変抵抗の電圧の高い方の端子 (R83の3番端子)を接続します。この時、フロントパネルの Volume Controlのつまみ を中央よりやや低い所に合わせてください。

 V+の電圧は通常の制御電圧のほぼ2倍であり、この高すぎる制御電圧はVCAを飽和させ、うまく固定することが出来ます。Volume Controlのつまみ を高すぎる位置に合わせてしまっても壊してしまうことはありません、音量を下げるまで何も聞こえないだけです。

 次にPitch TrimとVolume Trimのつまみを中央にあわせ、TimbleとVelocityを反時計回りいっぱいにまわし、L1〜L4のコイルのスラグ(磁心)を完全に出し(抵抗を感じて回らなくなるまで反時計回りに一杯にまわす )ます。スラグを無理にまわすとコイルが傷んでしまうので気をつけてください。

 全てのコイルのスラグを出し切ったら、今度はL1とL4のコイルのスラグを完全に入れて(時計回りにまわし切って)下さい。この2つのコイルの調整はこれで終わりです。

 アンプとTheremax本体を接続して両方の電源を入れます。まず、アンプの音量を音が大きすぎて歪まないように調整します。本体のVolumeControlのつまみはまだ中央から動かさないでください。

ピッチアンテナの調整 (音程をヌルに合わせる)

 L2のスラグをゆっくり入れていきます(時計回りに回す)、聞こえる音の音程がだんだん低くなっていき、聞こえなくなる程低くなってからまた高くなっていきます。Theremax本体と接続しているアンプが、ゲイン調整が出来るものならば、ゲインを高めに設定してください。

 L2のスラグを端から端まで回すと、先程のような音の変化が確認できる箇所がいくつかあり、その中でも特に音が大きな変化があることが分ると思います。その一番大きな音の変化において、音程が一番低くなって聞こえなくなるポイントに調整できれば理想的です。

 ヌル点付近では音程が下がり始める前の超高音と、調整が合っている状態の超低音の2つの超可聴音域、つまり音の聞こえない箇所があり、混乱しますが間違えないでください。

 L2を正確にヌルに設定するのは運がよくなければ無理でしょう。音程はコイルのスラグから工具を離したり、手を遠ざけるだけでも変化してしまう事に気がつくと思います。しかし、微妙な調整はフロントパネルの Pitch Trim のつまみで行うので心配は要りません。

 L2をヌルに近づける事が出来たら、フロントパネルのPitch Trim のつまみを回して少し遊んでみましょう。つまみを回してみると、コイルのスラグを回した時とほぼ同じような効果があり、その時よりもずっと細かく精密に調整が出来る事に気がつくでしょう。このように、簡単かつ正確に音程のヌルを合わせる事が出来るのです。

 音程をヌルに合わせる事が出来たら、アンテナの反応を見てみましょう。本機の適切な操作では、アンテナから手が40センチぐらい離れた所からピッチが徐々に上がり始め、5センチぐらいの距離で最高になります。

音量アンテナの調整 (音量をヌルに合わせる)

 しばらくピッチアンテナの反応で遊んで、コイルのスラグとPitch Trim のつまみの相互作用をなんとなく理解してきたら、いよいよ音量アンテナの調整に移りましょう。

 Pitch Trim のつまみを、音が出ていて聞きやすい状態に合わせて、D1とR83をつないでいた鰐口クリップのリード線を取り除き、フロントパネルのVolumeつまみを全開にします。

 出力の音を聞きながら、L3のスラグをゆっくり入れる方向に回していきましょう。スラグを端から端まで回してみると、音量が一度上がった後に下がって無音になり、再び上がり始めます。これは、音程の調整の時に、周波数が0まで下がってまた上がったのと同じです。

 この音量の変化が観察できたら、L3のスラグを再び一杯に出して、音が上がり始める所までゆっくりとスラグを入れていきます。

 このコイルの調整は非常に高い感度を伴います。アンテナで音量をコントロールできる範囲は、コイルのはじめの音量のピークの手前1/6回転の領域にあたります。最適な設定では、最高の音量(アンテナから手を完全に離した状態の音量)は、鰐口クリップのジャンパ線を付けていた時とほぼ同じ音量になります。

 音量アンテナの反応を試してみましょう。手をアンテナに20~30cm近づけると、音量は小さくなり始め、0.6cmより近づけると完全に0になるはずです。アンテナに触れても、ピーともポンと言う音もしません。もし音量の調節の幅が狭すぎて、10cm程度の幅でしか音量を変化させられない時は、L3のスラグを反時計回りに1/16回転程わずかに回してみてください。この操作は全体的に出力を少し下げますが、アンプのゲインをあげて補ってください。もっと手の動きの幅を広げたい場合は、L3のスラグをより回して、アンプのゲインを上げてみてください。

 あまりL3のスラグを出しすぎると、アンテナに手を置いても音が出てしまう事に気付くでしょう。これは出し過ぎですので、こうなる前の範囲で納得いくまで、手の動きの幅を調整してください。

 音量の調整が終わったら、Timbreつまみを時計回りに回すと、出力される音がサイン波から方形波に変化し、音がどんどんリードっぽくなっていくのがわかると思います。

 Timbreつまみをもとの反時計回り一杯の状態に戻して、今度は、Verlocity controlつまみを時計回り一杯に回して音量アンテナから急に手を遠ざけてみましょう、Gate/Trig LEDが光り、同時に音色が変わることに気付いてください。手を素早く動かすと重厚な音色に、手を止めたりゆっくり動かすと、倍音をあまり含まない澄んだ音色に落ち着きます。

 これであなたのTheremaxのテストと調整はおしまいです。もし、今までの手順で、説明の通りに行かない箇所があれば、イラスト冊子5ページのトラブルシューティングを参照してください。このマニュアルの設計解析の章にも役に立ちます。

THEREMAXの使用法

 テルミンの演奏というのは、数行の文章では語り尽くせない程の芸術です。さて、このなかなか普通の人が踏み込みたがらない世界に飛び込むにあたり、Clara Rockmoreの演奏方法の資料や記録を知っておきましょう。

 Clara はプロのバイオリン奏者でした。彼女は若い頃に発症した手の麻痺のために、後にテルミンの演奏を始めるまでは、演奏家生命は絶たれてしまったと思われていました。

 30年以上の期間にわたり、そびえ立つ巨大なスピーカーの前のClara の姿を撮ったたくさんの写真があります。この様子が非常に目立っている写真がいくらかありますが、これは彼女から後光のような迫力を出すための舞台効果としてだけではありません。彼女はスピーカーを自分のすぐ後ろに設置したために、自分の出した音をすぐに聞く事が出来ました。聴衆に聞こえる程音が広がる前に、ピッチの修正を寸での間に行うといった事が出来たのです。

 Clara はレガートを伴う指の高速移動と、スタッカートのアーティキュレーションの表現すら可能にした、"空中運指(エアリアルフィンガリング)"の技術を開発しました。


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